書評『Factfulness -ファクトフルネス』

#今週祝第1回目の書評は、ハンス・ロスリング(Hans Rosling, 1948年-2017年)のファクトフルネス。

スウェーデン人の著者は、医師や公衆衛生学教授、世界保健機関ユニセフのアドバイザーであり、この書籍の執筆を終えた2017年に他界した。

ビル・ゲイツが大学卒業を迎える学生に贈りたい、誰もが手に取るべきと絶賛した一冊だ。NewsPicksマガジンvol.2の洋書特集にも取り上げられていた。

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FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣

FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣

  • 作者: ハンス・ロスリング,オーラ・ロスリング,アンナ・ロスリング・ロンランド,上杉周作,関美和
  • 出版社/メーカー: 日経BP
  • 発売日: 2019/01/11
  • メディア: 単行本
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Factfulness: Ten Reasons We're Wrong About The World - And Why Things Are Better Than You Think

Factfulness: Ten Reasons We're Wrong About The World - And Why Things Are Better Than You Think

 

 まずこの書籍を読むに当たり、現在世界の抱える問題意識への私たちの知識が正しいのか確かめるテストが13項目ある。例えば、

 

  • すべての低所得の国の少女はどのぐらいの割合で小学校の課程を修了することができるのか?
  • 地球人口のマジョリティは低所得層か中所得層、高所得層どれか?
  • この20年間で世界の貧困は増加したのか減少したのか?
  • 一歳を対象にした予防接種は世界でどのぐらい受けられているのか?

 

正解は上から60%、中所得層、半減した、80%。

 

信じられるだろうか、私たちの問題意識と世界の現状は大きくかけ離れているのだ。

 

どの項目の正解率も全体的に極めて低く、当てずっぽで回答するほうが正解率が高い=我々はチンパンジー並みであると著者が述べている。また著者は様々な場でこのテストを実施した結果、学者や政治家、ジャーナリスト層の人々では正解率はわずかしか上がらなかった。国民の声を反映させる立場にも関わらずだ。

 

ここで言えることは、知識の変容性を考えるということが重要であるのではないか、ということである。

 

学校教育で学んだことのあるであろう教科書にある貧困層の子供達の鮮明な写真が、現在もほぼ変化のない状況であるとする無意識の知識の固定化現象があるのではないのか。

 

  • 個人間で知識をアップグレードすることにより、より的確に世界を捉えることができるのではないか。
  •  先進国/発展途上国という二つの軸に分類するのではなく、所得によって分類できる四つのカテゴリーが重要な指標であることを踏まえ思考すること。
  • 数値化と統計で判断をすること。

 

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 Anyone who has looked down from the top of a tall building knows that it is difficult to assess from there the differences in height of the buildings nearer the ground. They all looked kind of small. It is natural to miss the distinctions between the people with cars, the people with motorbikes and bicycles, the people with sandals, and the people with no shoes at all. (p44-45)

高層建物の天辺からよく地面を見下ろしていると、距離感により正確に物事を捉えることが難しい。彼らはすべてを小さい物と見なすと同時に、人々が所有している車やモーターバイク、自転車、サンドイッチ、靴も見過ごしてしまう。

解説を入れると、

この高層建物から地面に近い人々を見下ろしているのはLank4(先進国)であり、対照的に見下ろされている側はLank1,2,3(途上国etc.)である。この書籍を読んでいる主な層(Lank4)は彼らの国家の発展度を見過ごしがちである。

 

この他にも、著者ならではの貴重で豊富な経験が含まれて大変興味深い。この書籍で述べられている人間の10の本能に従うのではなく、統計を用いた人口増加やテロリズム、インタネット普及率、環境問題等の分析をしているパートも個人的に読み応えがあった。翻訳版も既に発売されているので興味のある方はぜひお手元に。